浅川達人のひとりごと

浅川達人のひとりごと
明治学院大学で「社会統計学」という授業を教えるようになって,かれこれ5年が経ちました.この授業は,社会調査士という資格を取得するためには必須の授業科目であるため,社会学科の学生の8割程度は受講しているものと思われます.この授業において,毎年必ず,分数の割り算の話をします.「6割る3分の1を,小学生にもわかるように説明しなさい」という問題に答えることを求めます.
大学生に対して分数の割り算?と思われるかもしれませんね.でも,実際に出題すると,まず教室がざわつきます.計算のしかたを忘れてしまって,すっかり狼狽する学生が15%ほど.「分数の割り算はひっくり返して掛けろ」という説明をする学生が70%ほど.残り15%ほどの学生は,きちんと説明できるようです.
きちんとした説明をするためには,「割り算」という概念について,正確な知識をもっている必要があります.畑村洋太郎の『続 直観でわかる数学』によると,割り算には3つの意味があります.ひとつめは,「分ける」という意味です.56本のバナナを7匹のサルに対して公平に分配するためには,一匹あたり何本のバナナとなるか,という問題を解くときの割り算が「分ける」という意味の演算となります.ふたつめは,「比べる」という意味です.ドレッシングを作るとき,酢とオイルを何対何の割合で混ぜるか,すなわち比を考える割り算が「比べる」という意味の演算です.
これら2つの意味とは異なる意味を,割り算は持っています.129÷32という計算で考えてみましょう.この計算は,129の中に32がいくつあるのか(商),それを取り出したときの余りはいくつかを問う計算となります.この「いくつあるのか数える」というのが,割り算の3つ目の意味となるのです.
この3つ目の意味を理解していれば,「6割る3分の1を,小学生にもわかるように説明しなさい」という問いに答えることができます.すなわち,6の中には,3分の1がいくつあるのか答えなさい,ということですね.1の中に,3分の1は3個あります.ということは,6の中には6×3=18あることになりますね.これが,分数の割り算の意味なのです.
「学ぶ」ということは,理解することです.機械的に何かを暗記し,暗記したことを適宜吐き出すことができる能力を身につけること,だけが「学ぶ」ことではありません(もちろん,そのような暗記も必要ではありますが,それだけが「学ぶ」ことの意味ではないはずです).このことに気づいてもらうために,私は毎年,分数の割り算の話をしているのです.
大学は「学ぶ」場です.学生のみなさんに,しっかり「学んで」もらうことができるように,心がけたいと思っております.
学ぶということ
2010年10月29日金曜日